昨日のニュースから
iPS細胞を使った網膜色素変性症患者への細胞投与を2例をこの秋に実施することが発表されました。移植の実施自体については、すでに発表がなされれています。
http://kobe.eye.center.kcho.jp/files/20200611/ea81c2f0148a9dc16887270d37fe84945ff54a02.pdf
今回の移植の意義・内容は以下のようになると思います。
- iPS細胞から分化させた網膜の組織シートを移植すること
- 他人から作ったiPS細胞を使うこと
- 企業が細胞を製造し、移植すること
- 安全性評価が主要な評価項目であること
1.iPS細胞から分化させた網膜の組織シートを移植すること
これまで、日本ではいくつかのiPS細胞由来の細胞を移植されてきました。今回は視細胞と呼ばれる光を受けて、脳へ信号を伝える細胞を移植するわけですが、これまでに移植が実施されたものは基本的には単一の細胞集団でした。今回移植されるものは、複数の細胞が混ざったいわゆる組織を移植することになります。このことは、腎臓や肝臓など様々な細胞から成り立つ臓器などの立体組織の移植に向けた第一歩と言えると思います。
2.他人から作ったiPS細胞を使うこと
眼科領域では、すでにRPE(網膜色素上皮細胞)と呼ばれる細胞を滲出型加齢黄斑性症の患者さんへ移植が実施されていますが、最初は自分の細胞から作ったiPS細胞を使っていました(その後他人のiPS細胞を使った移植もされています)。今回は、京都大学iPS細胞研究所の中(現在は製造部門が、公益財団京都大学iPS細胞研究財団として財団化されています)で作ったiPS細胞を使うことになっています。ですので、拒絶反応によって生着しない可能性もありますが、免疫抑制剤などによってうまくコントロールできれば、より早く一般的な治療法となる可能性が広がります。
(因みに眼は脳内と同様に免疫特権のある場所として、他の場所よりも免疫反応が起こりにくい臓器としても知られていますので、最初に移植研究として選ばれた理由の一つといえるかもしれませんね)
3.企業が細胞を製造し、移植すること
これまでの臨床研究などでは、主に大学や研究機関内で細胞を分化させ、細胞の製造を行っていることがほとんどでしたが、今回は本臨床研究では、大日本住友製薬株式会社が担当しています。広く一般に使われるためには、大量に安定的に製造される必要がありますが、最初から製薬企業が携わっていることから、商業生産への道筋が立ちやすいのではないかと思います。
4.安全性評価が主要な評価項目であること
今回の臨床研究の目的は、
①生着するか
②腫瘍など安全性に問題がないか
といったことを評価することが目的で、治療効果の部分は副次的な評価ポイントとなります。また、2名での実施ですのでいわゆる統計的な有意差を判定することはできません。しかしながら、細胞が生着することで何らかの改善作用が見られれば、今後より多くの人へ移植してその効果を確かめる第1歩となることは間違いないです。
網膜色素変性症は、その進行を抑えたり、症状を改善する治療法が確立されていない疾患です。この研究が、患者さんにとって本当に光をもたらす結果を導き出すことを祈っています。
ここまで読んでくれた方はほとんどいないと思いますが、
最後まで読んでいただきありがとうございました。
追記
神戸市立神戸アイセンター病院から16日、他人のiPS細胞から目で光を感じる視細胞を作り、目の難病「網膜色素変性」の患者に初めて移植したと発表されました。